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炎症性腸疾患

まず、人の炎症性腸疾患にはクローン病と潰瘍性大腸炎があります。
これらは様々な原因があると考えられていますが、欧米食によって腸内細菌叢が乱れたことが背景にあるとも考えられています。
犬でも炎症性腸疾患はあります。ただし、人の炎症性腸疾患に比べ犬で炎症性腸疾患と言われている症例では病変が軽度で内視鏡による病理検査所見を見ても類似性がほとんどありません。
犬で炎症性腸疾患と診断された場合、多くの症例でステロイドやシクロスポリンなどの免疫抑制剤によって免疫反応を漠然と抑えてしまう治療法を生涯続けられています。これらは、炎症を抑える対症療法であって、根本的な病変に対しての治療法ではありません。そのため、投薬を中止すると症状が再燃してきますし、徐々に薬剤の効き目が悪くなり、投薬量を増やしていかなければなりません。いずれにしてもこのような治療法では薬剤から離脱することは不可能です。

犬の炎症性腸疾患の中に実は食物アレルギーの症例が含まれていることが最近分かってきました。アレルギー検査(特にリンパ球反応試験)によってアレルギー反応が認められた食物を除去した除去食療法を実施すると症状が改善し、これまでの投薬が不要になる症例が各種の学会や研究会発表などで最近報告されるようになってきました。

ある報告では、炎症性腸疾患と診断された犬8頭中4頭の症例で食物のみの管理で症状が改善され、さらに残りの症例では食物を変更することでステロイドやシクロスポリンなどの免疫抑制剤の用量を漸減出来た症例もあったと報告しています。
またある報告では、慢性腸疾患と診断された38頭の犬のうち23頭が食物のみで管理ができ、ステロイドが必要な犬は15頭でした。ただし、血液検査で低アルブミン血症が認められるとステロイドが必要になる確率が10倍になった。との報告がありました
これらのように、犬においてはこれまでは炎症性腸疾患であると考えられステロイドなどの治療を続けて来られた症例が、実は食物アレルギーだったことが分かってきましたので、これからはそのような症例に対して最初から原因となる食物アレルゲンを検査で特定し、それを除去した除去食療法を実施すべきだと考えます。ただし、内視鏡検査や血液検査などで適切な除外診断や低アルブミン血症などの予後因子の確認は行うべきだと考えます。
ところで、人では食物タンパク誘発性胃腸炎(N-FPIES)という名の疾患があります。乳幼児期から胃腸炎を起こす疾患であり、食物アレルゲンに反応するアレルギー反応、特にIgEが関与しないリンパ球の反応が報告されています。原因となる食物アレルゲンを特定しその除去食療法を実施すると症状がよくなることが分かっています。その臨床徴候はアレルギー反応から考えると、犬の炎症性腸疾患はこの疾患に類似していると考えられます。
炎症性腸疾患の疑いがある場合、漠然とステロイドを使用することはせずに、食物アレルギーの有無をしっかりと検討し、さらには根本治療を目指すべく腸内環境の改善などを徹底していく必要があると思います。                                         

引用 AACLニュースVol.11:動物アレルギー検査株式会社

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